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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)5406号 判決 1992年11月25日

原告

白石カツ

被告

北田優

ほか一名

主文

一  被告北田優及び同北田順子は、原告に対し、それぞれ各金一〇九九万九三三七円及び各内金一〇三八万一八〇二円に対する平成三年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告北田優及び同北田順子は、原告に対し、それぞれ各金一二一二万五七三七円及び各内金一一四八万一八〇二円に対する平成三年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通死亡事故の被害者の遺族が、死亡した加害者の相続人に対し、自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

原告の長男白石智幸(昭和四八年八月五日生、当時一六歳、以下「亡智幸」という。)は、次の事故により死亡した。

(1) 発生日時 平成二年七月一日午前四時四五分ころ(天候小雨)

(2) 発生場所 大阪府茨木市五日市緑町二番一号先国道一七一号線、名神高速道路茨木インター入口付近路上(以下「本件現場」という。)

(3) 事故車 (甲)自動二輪車(一神戸ね一三九六)

(乙)普通乗用自動車(大阪七八ふ一一九七)

(丙)普通乗用自動車(大阪七七ろ二六六八)

(4) 運転者 (甲)亡北田直人(平成二年七月一日死亡、以下「亡北田」という。)

(乙)濱崎直幸

(丙)上原幸男

(5) 事故態様 亡北田が自動二輪車(甲車両)を運転し、国道一七一号線の高架となつている一方通行道路を箕面方面から高槻方面に向けて逆走していたところ、前方から進行してきた濱崎直幸運転の普通乗用自動車(乙車両)の右前部に甲車両前部を衝突させ、更にバランスを崩しながら約二〇メートル走行し、乙車両の後続車である上原幸男運転の普通乗用自動車(丙車両)の右前部に甲車両を衝突させ、亡北田及び甲車両後部座席に同乗していた亡智幸が本件現場付近で転倒し、両名とも死亡するに至つた。

2  亡智幸の死亡日時・原因

亡智幸は、本件事故による頸髄損傷により、平成二年七月二日午前一〇時二六分死亡した。

3  亡北田の責任

亡北田は、甲車両を保有し、これを自己のため運行の用に供していた者であるから、自賠法三条により本件事故による損害を賠償する責任がある。

4  相続

亡智幸の相続人は亡智幸の母である原告のみであり、亡智幸の有した本件損害賠償請求権を全て相続した。

5  亡北田の相続人は亡北田の父母である被告両名であり、亡北田の負つた本件損害賠償債務を法定相続分に従つて各二分の一宛相続した。

6  損害の填補

原告は自賠責保険から二五〇〇万三〇〇〇円の支払を受けた。

二  (争点)

被告は、損害額を争うほか、好意同乗による減額を主張する。

第三争点に対する判断

一  好意同乗による減額について

1  争いのない前記事故態様に加え、証拠(甲二、証人本山政和、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 亡智幸と亡北田は、関西高等学院の二年九組に在籍する同級生であり、日頃から親しく交遊していたものであるが、ともに自動二輪車に関心があり、亡北田は自動二輪車の免許をすでに取得して自動二輪車(二五〇cc、甲車両)を所有し、亡智幸も免許取得を計画し、親戚からもらつたヘルメツトも持つていた。

本件事故の前日である平成二年六月三〇日(土曜日)午後一一時過ぎに、学校での約束どおり亡北田及び同級生の本山政和が、亡北田が甲車両、本山が原動機付自転車にそれぞれ乗つて亡智幸宅を訪れた。同人らは、亡智幸宅でテレビゲームをしたり、ビデオを見たりして、ほぼ徹夜の状態で翌七月一日午前四時ころまで時間を過ごしたのち、その辺をぶらつとしないかとの亡北田の発案で、亡北田の運転する甲車両に亡智幸が同乗し、本山は原動機付自転車に乗り外出した。途中、亡北田は本山を残して、亡智幸と二人で行つてくるからと同乗の亡智幸とともに走り去つた。

(2) 本件事故現場付近は、亡北田の進行方向左側に大きくカーブしている道路で前方の見通し悪い一方通行の、幅員約九メートル(内路側帯部分約一・七メートル)の二車線、五〇キロメートルの速度制限のある道路であり、亡北田は一方通行道路の左側車線を、約二七〇メートル逆行して、本件事故にあつたものである。

以上の事実が認められる。右の事実に争いのない本件事故発生時間、発生場所、事故態様を総合勘案すると、亡北田は、明け方でかつ雨天であつたこともあつて、進入禁止標識を見落として本件道路を逆行し、交通閑散であつたため、本件事故現場付近にまで至り、本件事故にあつたことが推認される。

右に反し、亡北田が進入禁止標識を無視して本件現場付近を逆行していたとまで認めるに足りる証拠もなく、また、亡智幸の同乗にあたり、亡北田が無理やり亡智幸を乗せたと認めるに足りる証拠もない。

2  ところで、好意同乗による減額は、同乗者が事故発生の危険が増大するような状況を現出させたり、あるいは事故の発生の危険が極めて高いような客観的事情が存在することを知りながら、あえて同乗したといつた、同乗者について事故の発生につき避難すべき事情が存在しなければならないというべきところ、右事実によれば、亡智幸が、亡北田の本件道路の逆行を容認していたとは認められず、また、亡北田のほぼ徹夜の状態を認識していたことまでは認められるが、本件事故が居眠り運転によるものと認めるまでの証拠もなく、亡北田の年令に照らし、右の徹夜の事実が直ちに事故の発生の危険が極めて高いような客観的事情にあたるとまではいえないから、亡智幸には本件事故発生について非難すべき事情は存在しないといわざるを得ない。被告らの好意同乗による減額の主張は理由がない。

二  損害(各費目の括弧内は原告ら請求額)

1  亡智幸の逸失利益(二五一六万三六〇四円) 二五一六万三六〇四円

証拠(甲三、四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、亡智幸は、昭和四八年八月五日生の本件事故当時は一六歳の健康な男子で、本件事故にあわなければ、一八歳から六七歳まで稼働可能であつたといえるから、平成二年賃金センサス第一巻第一表男子労働者の産業計、企業規模計、学歴計一八ないし一九歳の平均年収額である二一七万六五〇〇円を基礎とし、その五割を生活費として控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると二五一六万三六〇四円となる。

(計算式)2,176,500×(1-0.5)×23.123=25,163,604(小数点以下切捨て)

2  慰謝料(二〇〇〇万円) 一八〇〇万円

亡智幸が母子家庭の長男(他に姉一人)であることなどの家庭状況、本件事故態様、亡北田と亡智幸が友人関係であつたこと等諸般の事情を総合考慮すれば、慰謝料として一八〇〇万円が相当である。

3  弁護士費用(二〇〇万円) 総額一八〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一八〇万円と認めるのが相当である。

4  遅延損害金

以上によれば、原告の総損害額は、争いのない葬儀費八〇万円及び文書料三〇〇〇円を合算すると、四五七六万六六〇四円となる。

自賠責保険金二五〇〇万三〇〇〇円が支払われたのは平成三年一月一四日(弁論の全趣旨)であるから、不法行為の日である平成二年七月二日から右支払日まで一九七日間の民法所定の年五分の割合による遅延損害金は一二三万五〇七一円となる。

5  合計

自賠責保険金二五〇〇万三〇〇〇円を原告主張どおり損害元本四五七六万六六〇四円に充当すると、平成三年一月一四日現在の損害残金は、損害元本が二〇七六万三六〇四円、遅延損害金が一二三万五〇七一円となり、被告らは各二分の一の割合で右損害賠償義務を負うことになる。

三  まとめ

以上によると、原告の請求は、被告らに対し、それぞれ一〇九九万九三三七円及び各内金一〇三八万一八〇二円に対する平成三年一月一五日(一部弁済日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 高野裕)

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